<金口木舌>甲子園の土


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 選抜高校野球や春の九州高校野球が終わり、球児たちはもう夏の甲子園大会を目指している。「聖地」で投げ、打ち、走る姿を夢見て

▼今から55年前の夏の甲子園。沖縄から首里高校が春夏を通じ初めて出場した。試合を終えナインが持ち帰った甲子園の土を、那覇港で捨てる衝撃的な出来事があった。米国統治下の植物検疫法に抵触し持ち込めなかったのだ
▼上陸を目前に、一生の宝となる甲子園の土を捨てざるを得なかった選手たちのつらさは計り知れない。甲子園に立ってつかんだ努力の“結晶”が、一瞬にして水泡に帰した
▼首里高出場からちょうど半世紀がたった2008年8月、当時の同校野球部主将・仲宗根弘さんは、高校野球ファンの印象に残る選手を集めた催しに参加。「思い出の甲子園に2度も立てるとは思わなかった」と感激した
▼そして50年前に持ち帰れなかった甲子園の土をとうとう持ち帰った。ポケットに用意した袋に「手で一握りだけ詰めた」という。半世紀ぶりに願いがかなった喜びは格別だったろう
▼首里高が甲子園の土を持ち帰れなかった悔しさは、その後、沖縄尚学高と興南高が優勝旗を持ち帰り晴らした。きょう4月28日はサンフランシスコ講和条約が発効した日。復帰前の高校球児の不便や苦難に思いをはせつつ、基地過重負担の解消など未解決の主権問題とも向き合いたい。