<金口木舌> 戦の記憶刻む島で


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 沖縄に憲法記念日ができたのは、米軍施政権下で憲法が適用されていなかった1965年だった。当時の立法院議員が共同発議で憲法記念日を提案した

 ▼発議者の一人、古堅実吉さん(元衆院議員)を9年ほど前に取材した。「世界に誇れる憲法を盾に、平和の思いを広げることが大事だ」。学徒隊として沖縄戦を体験し、戦後は「日本国憲法の下」への復帰を追求してきた人の言葉はずしりと重かった
 ▼この人が生きていたら、今の日本をどう思うだろうか。「タカ派」の政治路線が勢いを増す中、無性に話を伺いたいと思う人がいる。2007年に亡くなった作家の城山三郎さんだ
 ▼皇国青年だった城山さんは、志願した海軍で水中特攻部隊に配属された。竹の棒に爆薬を取り付け、上陸する敵の艦船に体当たりする計画が用意されていた。若者の命を軽んじた無謀な計画だが、命令する側、される側に疑問を挟む余地などなかった
 ▼命を粗末に扱った時代への憤りが戦後、戦争文学へ向かわせた。憲法「改定」が現実味を帯びる今、城山さんが生きていたら、娘たちに語った言葉を繰り返すことだろう。「戦争で得たものは憲法9条だけだ」
 ▼戦の記憶を刻むこの島で、憲法に寄せる先達の思いを受け止めたい。戦後68年間、戦争を許さなかった国民の見識を「平和ボケ」と蔑(さげす)むのではなく、誇りとして引き継ぎたい。