<金口木舌> 美しい包装紙の中身


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 1982年にヒットした映画「愛と青春の旅だち」。リチャード・ギア主演で海軍士官養成学校を舞台にした物語だ。原題は「An Officer and a Gentleman」(士官と紳士)と素っ気ない。恋愛映画と思わせる邦題が人々の心を見事につかんだ

 ▼言い換えが印象を変えた成功例と言える。だが、権力を持つ側がこの手法を使うときは要注意だ。歴史をひもとけば、この国では戦中から、侵略を「進出」、退却を「転進」、敗戦を「終戦」に置き換えてきた
 ▼最近では、国民総背番号制の「マイナンバー法」が典型だ。横文字で問題点を覆い隠してしまった。米軍は緊急着陸を「予防着陸」とはぐらかす
 ▼こうした“翻訳”がお得意なのは原子力ムラだろうか。2年前の福島第1原発の水素爆発事故を「事象」と説明したのを皮切りに、汚染水を「滞留水」、老朽化を「高経年化」という造語で、ごまかそうとしてきた
 ▼政府は先ごろ原発再稼働を「成長戦略」に位置付けることを固めた。実験施設での放射性物質漏れが起き、原発事故の解決策も見えない中、経済という甘い糖衣で危険性を包んでしまった
 ▼7月の参院選を控え、今後も政治家の口から数々の美辞麗句が漏れてくるはずだ。うわべの装飾に惑わされることなく、美しい包装紙の中にある本質を見極める目を持ちたい。衣の下によろいが潜んでいるかもしれない。