<金口木舌>対立を超える場


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 2020年夏季五輪実施競技の除外危機に面しているレスリングの関係者の共闘が思わぬ広がりを見せている。核問題で対立し国交を断絶しているイランと米国の選手が手を結び、ニューヨークで交流試合を実現させた

▼試合直後のイラン選手の感想が印象的だった。「アメリカの人たちに感謝したい。これこそスポーツだ」
▼このテレビ画面を見て脳裏をよぎった場面がある。1979年、「レゲエの神様」と称されるボブ・マーリーが“血の抗争”を繰り広げていたジャマイカの二つの党の党首をライブのステージに上げ、手を結ばせた有名な瞬間だ
▼スポーツや音楽は時に政治の対立を超える。あの時も確かにそんな舞台だった。2010年9月、尖閣諸島沖で中国漁船と海保の船が衝突した事件の1カ月後。日中関係が緊迫する中、青少年訪中団が中国の若者と交流した
▼舞台で繰り広げる両国の伝統芸能に喝采を送り合う。最後は全員が舞台に集まり肩を組み合い、ダンスを舞った。将来国を背負う担い手同士がしっかり未来を見据えた踊りだった。足取りが大きなステップに見えた
▼空手、踊り、島唄、三線、諸国との友好親善の歴史…。沖縄は対立を超えて交流をつくる潜在力が豊かだ。二国間関係が悪化した時に、いかに心の壁を解きほぐし、対話へスイッチを切り替えるか。沖縄にできることがたくさんある。