<金口木舌> 長老の意見を封じるその先に


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 自民党の重鎮、野中広務元官房長官が尖閣諸島について日中間に「領有権の棚上げ」合意があったと発言したことが波紋を呼んでいる。先日は同じく実力者だった古賀誠元幹事長が共産党の機関紙「しんぶん赤旗」で憲法改正要件を緩和する96条の改定に反対したことも話題になった

 ▼両氏の発言に、森田一・元運輸相の言葉を思い出した。大平正芳元総理の娘婿で、自民党リベラル派の多い宏池会に属した森田氏は「リベラル派の基盤には戦争体験があった」と言った
 ▼森田氏は「平和を尊重するというリベラル派共通の思いがなくなった時に、タカ派の強い主張に代わる理論を打ち出せなかった」と悔やむ。党内で改憲に慎重な意見は封殺されていると
 ▼野中氏は「近隣諸国との在り方よりもインド、アフリカに手を伸ばし原子力のトップセールスマンのようなことをやる」と舌鋒鋭く安倍首相を批判。アジア周辺諸国への影響を懸念する
 ▼さて、野中発言に対して政府の反応はどうか。菅義偉官房長官は「現職の国会議員でもない」と突き放し、沈静化に躍起。古賀氏発言も事実上、黙殺している
 ▼野中、古賀両氏の発言は、自民党が重鎮の助言も受け入れず、幅の広い議論をする環境がなくなったことを示す。参院選の圧勝もささやかれる中、その先に何があるのか。長老でなくても危惧の念は強まるばかりだ。