<金口木舌>31文字の世界


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 わずか31文字に思いを込める短歌の世界。2010年に他界した歌人の河野裕子さんは、病に伏した後も多くの歌を詠んだ

 ▼夫で歌人の永田和宏さんが著した『歌に私は泣くだらう-妻・河野裕子 闘病の十年』には、病床でティッシュの箱にかすれた文字で歌の断片を書き留めたエピソードがつづられ、胸を打つ
 ▼「手をのべて/あなたとあなたに/触れたきに/息が足りない/この世の息が」。永田さんが口述筆記した死の前日の、最期の一首。河野さんは最期の一息まで歌人として生き抜いた。心を映した短歌の奥深さを感じずにはいられない
 ▼本紙文化面の「琉球歌壇」にも毎月、たくさんの作品が寄せられる。そこには沖縄で生活する人々の視点が凝縮され、時世を表す歌が見られる。昨年はオスプレイ配備を詠んだ多くの歌が寄せられた。過剰な米軍基地が伸し掛かる小さな島のあえぎが、歌から聞こえてくるようだった
 ▼「墜落多き/オスプレイが/やって来る/降り止まぬ雨/じとじとじとと」。今年、「琉球歌壇賞」を受賞した萩かさねさんの一首。オスプレイ配備に対する県民の心情を声高ではなく淡々とつづる。そこからは抵抗の意思がしっかりと見えてくる
 ▼6月、沖縄は「慰霊の月」を迎えた。米軍機が飛ばない、梅雨晴れの青空を詠む日が来るのは一体いつだろうか。