<金口木舌>沖縄戦の教訓、今こそ生かせ


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 自然壕の暗闇の中、赤ん坊が次々に泣き出した。「黙らせろ」。敵に居場所を知られるのを恐れた日本兵が怒鳴った次の瞬間、銃声が響いた。7歳ほどの少女が前へ崩れ落ちた

▼糸満市の仲松庸全さんが沖縄戦で目撃した日本兵による少女銃殺の場面だ。「軍隊は住民を守らない。それどころか住民を殺害したり、死に追いやったりした」。体験から得た最大の教訓という
▼仲松さんが「まさか友軍が」と語るように、県民には当初、日本軍第32軍は守りに来たと見えた。だが目的は本土決戦に向けた時間稼ぎ。このため多くの犠牲を生む。今では周知の史実だが、県民に広く知れ渡るまでには時間を要した
▼沖縄戦研究者の石原昌家氏によると、戦後の混乱期は県内の識者の間で旧日本軍の行動を批判的に検証する動きは無いに等しかった。1960年代の復帰運動を機に「捨て石」作戦の実相が徐々に知れ渡ったとみる
▼運動の中心を担った教職員らが沖縄戦を捉え直し、県民に発信する役割を担った。生徒の命を奪った戦争を二度と繰り返すまいとの誓いからだ
▼沖縄戦の教訓に思いを致すと9条改定や国防軍創設を掲げる自民党改憲案に不安が募る。国民的議論を欠いたまま、改憲手続きが進み、いつの間にか国民に銃が向けられたり、銃を持たされたりする事態にならないか。不幸な歴史は繰り返してなるまい。