<金口木舌>ネズミの時間ヒトの時間


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 梅雨明け後に吹く南風「かーちべー」が心地いい季節。琉球王国時代、進貢船はこの風を利用して中国から琉球へ戻った。10日以上かかったものが、今は空路で数時間だ

▼技術革新のおかげで人は速さと時間を手に入れた。車、パソコン、洗濯機…。だが、それで果たして幸せだろうかと、生物学者の本川達雄氏が疑問を呈している。21年前のベストセラー『ゾウの時間ネズミの時間』(中公新書)の著者だ
▼同書は、動物には異なる「生物的時間」があることを解き明かした。ネズミの心臓の鼓動は1回0・1秒、ゾウは3秒。寿命は2年と70年で開きがあるが、どちらも一生の鼓動は同じ15億回。呼吸も同じ3億回。生涯を生き切った感慨は変わらない。どの動物にもあてはまる原理だ
▼一方、文明の利器で便利さを得た人類には無理が生じていると指摘する。桁違いに速くなった社会の時間に体の時間が追い付けず、ストレス、疲れ、不機嫌を生み出すと
▼本川氏が生物的時間に着目したのは、琉球大学勤務時代、沖縄のゆったりした時間に出合ってから。本部町瀬底島のナマコ研究がヒントになった。転居後は満員電車になじめず、「東京は悲しい所」と沖縄を懐かしんでいる
▼きょうは一年で最も昼が長い夏至。ヒトという動物として、時計に縛られない生物的時間に浸り、あくせくしない生き方を考えるのも悪くない。