<金口木舌> 民に知らしむべし


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 ホームランは野球の華だが、巧打、俊足、強肩の選手が見せるクロスプレーのドキドキ感も魅力だ。イチロー選手のプレーがまさにそう

 ▼「飛ばないボール」がいつの間にやら「飛ぶボール」に変わっていたプロ野球の統一球問題。理由の一つはホームランが減ったから「ファンのため」ともいわれる。もし日本野球機構(NPB)もそう思ったのならお門違いだ
 ▼「民は由(よ)らしむべし、知らしむべからず」。統一球問題で論語の一節が頭をよぎった。選手、ファンを無視し、理由は知らなくていい、“お上”のやることは間違いない、という前近代的な考えがあったとすれば、NPBの見識を疑う
 ▼ただ、「知らしむべからず」を「情報隠し」とする解釈は間違いという説もある。明治書院版「論語」によれば、本来は「民の一人一人に(施政の)意味を知らせるのは難しい」と為政者の心構えを説くものらしい
 ▼思えばプロ野球に限らず、昭和の初めから現代まで、論語の解釈を誤ったような権力者の振る舞いは多い。情報を与えず本土決戦への時間稼ぎに住民を巻き添えにした68年前の悲劇。日本政府が知らぬ存ぜぬと言い続けながら、県民意思を無視して配備されたオスプレイもそうか
 ▼「知らしむべからず」。2500年前の賢者が喝破したことは現代に通じる。説明責任を果たさない権力者の言い分は、いつの時代も信用できぬ。