<金口木舌> パンとペンと表現の自由


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 万年筆が突き刺った食パン-。フランスの風刺漫画のようなイラストが目を引いた
 ▼描いたのは「日本社会主義運動の父」と呼ばれた堺利彦。「ペンを以てパンを求むるは僕らの営業」。約100年前に立ち上げた、編集プロダクションの元祖とも言える、売文社のシンボルマークとして掲げた

 ▼ノンフィクション作家黒岩比佐子さんが著した『パンとペン』に、思想弾圧の厳しい時代を耐え抜くために売文社を設立した堺の闘いが記されている。日露戦争に反対した堺は迫害に耐え、ユーモアを交え書くことに活路を求めた
 ▼黒岩さんは本の完成後、膵臓(すいぞう)がんで亡くなった。20年以上、フリーランスの物書きとして活動を続けた黒岩さんは、堺と自らを重ねた。「死というものに現実に直面したことで…命懸けの闘いが初めて実感できた気がする」
 ▼戦後世代は日本国憲法21条の「表現の自由」を享受しているが、当たり前ではない時代があった。それを忘れたか。自民党の憲法改正草案は「公益及び公の秩序」維持を大義名分に表現の自由を縛ろうとする。不可解だ
▼もし堺が生きていたら、容赦なく斬り込むのでは。自由や基本的人権を守る国だと世界に喧伝(けんでん)しながら自国の憲法を批判し続ける政治の厚かましさ、“アメとムチ”を自国民に放ち続けるこの国の不条理に。そんな風刺漫画もそろそろ願い下げにしたいが。