<金口木舌> ビッグ・ブラザーの正体は?


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 テレスクリーンという双方向のテレビで市民の行動は全て政府に監視されている。正体不明の「ビッグ・ブラザー」が率いる党が国を独占、思想や言語、結婚まで統制し国民の私生活は存在しない

 ▼1948年に英国の作家ジョージ・オーウェルが小説「1984」で近未来を予言的に描いた社会だ。日々歴史を改ざんする役人である主人公の男はある日、抹殺されたはずの人物が載る新聞記事を偶然見つける。以来、体制に不信を抱き、隠された真実を探り始める
 ▼米当局がネット上の個人情報を広範に収集してきたことを暴露した元CIA職員が、この小説の主人公と重なった。米政府が世界中の人々のプ
ライバシーやネットの自由、人権などを壊すのが許せなかったという
 ▼だが米政府は「テロ対策だ」と強調するばかりで実態を明かさない。それが世界のネット市民の間に不安を広げている
 ▼問題発覚後「1984」のアマゾン・ドットコムでの売り上げが約70倍に急増したという。元職員の人物像や行方についての報道が多いが、市民が一番知りたいのは監視の真の姿、すなわち“ビッグ・ブラザー”の正体に違いない
 ▼今日はオーウェル生誕からちょうど110年。「1984」の発刊翌年に46歳で世を去った。政府に監視される恐怖を描き、65年たった今も輝きを放つ遺作に込めた彼の警告を、あらためて胸に刻みたい。