<金口木舌>忘れさせない「630」


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 「じぇじぇ!」の方言が話題のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」。主役の能年玲奈さんが起用の連絡を受けたのは、関係者によると、昨年7月の沖縄だった

 ▼撮影していたのは映画「ひまわり」。宮森小の米軍機墜落事故を描いた作品だ。基地従業員の娘として苦悩する大学生を沖縄のアクセントで好演した
 ▼公開から半年。観客は県内だけで2万人を超えた。最近は若い人の姿が目立つという。生まれた時から基地がある世代だが、不条理な沖縄の実態を知り、「歴史を学びたい」「何か行動したい」との感想が寄せられている
 ▼1959年6月30日に起きた惨事は18人の命を奪った。当事者や遺族の心の傷はあまりに深く、長い間口をつぐんできた。事故50年を機に発足した「宮森630会」が聴き取りを進め、証言集3冊にまとめた。半世紀たって重い口を開いた人もいる
 ▼若者たちは演劇や絵本を創作した。映画化もあり、風化させまいというバトンは着実に引き継がれている。能年さんもブログで「沖縄の悲しいもう一つの顔を皆さんと共に考えていけたら」とファンに呼び掛ける
 ▼当時遺体を家族に引き渡した元教員・豊浜光輝さんは、昨年の慰霊祭で「忘れたい。でも忘れてはいけない。忘れさせない」と声を詰まらせた。痛みの歴史をまず知ること、そして伝えていくことが、この島の未来を変える力になる。