<金口木舌> 子孫に残すメッセージ


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 県内の怪談には沖縄ならではの物語がある。先祖の霊が現れ、子孫に忠告したり助けたりする内容だ。“先祖の声”を尊びながら仏壇や墓を拝む慣習の反映だろう

 ▼今、ぜひ声を聞きたい祖先がいる。明治政府の「琉球処分」に抵抗した琉球救国運動の指導者、幸地朝常だ。琉球存亡の危機を清国に訴え、そこで死去した。不動の意志を示すため退路を断ち、長男と一緒に清に渡った
 ▼1880年、日本と清は琉球の帰属をめぐる交渉で琉球列島を両国で二分割する条約に基本合意する。だが朝常らの強力な条約調印阻止運動などもあって、分割案は結果的に棚上げされた
 ▼オスプレイ配備、4・28政府式典、普天間辺野古移設…。「第三の琉球処分」とも言われる状況を、草葉の陰からどう見ているか
 ▼琉球出国から146年。県内で特別自治州や独立などの論議が活発化する中、朝常が帰ってくる。子孫がハワイに持ち込んだ位牌(いはい)を引き取る親族の渡久山朝一さんは10年前なら引き取る決断はできなかったと言う。決意の理由は「普天間の県外移設を訴え、後に引かない今の沖縄と朝常が重なった」と語る
 ▼子や孫に「引かない精神」を受け継がせようと渡久山さんは長男を連れハワイに向かった。今の決断が子孫の運命を決める-。朝常の“里帰り”は、沖縄が大切な岐路に立っていると示唆しているのかもしれない。