<金口木舌>チルダイするなよ


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 14年前のこと、高教組が主催した平和教育野外実習を取材した。沖縄戦を学ぶのに南部でなく北部を選んだことが興味深かった

▼訪ねたのは日本軍による住民虐殺があった大宜味、差別と苦難の歴史を歩んだ愛楽園、軍に協力した名護の武田薬草園跡。やんばるに学ぶべきことが多くあることを知った
▼その時案内役だったのが、名護商業高(当時)教諭だった大西照雄さん。国頭村出身の大西さんが「埋もれる沖縄戦の実態を掘り起こす」と足元を丁寧に調べる必要性を強調したことが今も印象に残る
▼ほぼ14年ぶりに大西さんと話をしたのはことし2月。辺野古アセスやり直し訴訟で原告住民敗訴を受けた取材で、入院先の病院を訪ねた。闘病生活で痩せてはいたが、平和や自治への持論を語る目の光は以前のままだった。その大西さんは慰霊の月の6月、天へと旅立った
▼晩年の大西さんは、やんばるの基地建設反対運動で住民の精神的支柱ともいえる存在だった。病室を辞去するあいさつの後、仲間へと託された言葉は「チルダイ(落胆)するなよ」
▼改憲の動きや基地押し付けなど、時には「チルダイ」しそうになることもある。だがそんな時こそ「足元を掘り起こす」大西さんの行動力を思い出す。沖縄戦の教訓と平和を語り継ぐ作業に終わりはない。次の世代がバトンを受けて、続けていかなければならない。