<金口木舌>ネット選挙


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 ある藩の侍が江戸への道中、いたずら心でキツネ皮の胴着を着込み、キツネに成り済ます。乗せた駕籠(かご)屋も宿屋の主人もありがたいお稲荷(いなり)様と信じ込んで大歓待。庭の稲荷から夫婦キツネが侍を見送り「化かすのは人間にはかなわねえ」とオチをつける。落語「紋三郎稲荷」の粗筋

▼夫婦キツネと似たつぶやきを聞く。芸能人に成り済ましたメールで通信費をだまし取る詐欺の横行だ。タレントのスケジュールに合った内容のメールを送るなど手口が巧妙だ
▼ネット使用が解禁となった今参院選でも、与野党党首らに成り済ましたツイッターが複数存在する。公式ツイッターと同じ写真を使い、ユーザー名も似ており、よく見ないとだまされてしまう
▼認証マークをつけるなど抑止に努めても、“選挙妨害”はなかなか収まらない様子。度が過ぎて、せっかく緒に就いたネット選挙にけちがつかないか気掛かりだ
▼ある党のネット選挙を仕切る衆院議員は「成り済ましも虚偽も誹謗(ひぼう)中傷も起こり得る。誤った情報を選挙中に修正できるかも分からない。今回は手探りだ」と認めていた。有権者も詐欺に引っかからぬようご用心
▼しかし、政治家も自分のことを棚に上げてはなるまい。できないことを並べ立てる、公約をほごにする。よく見掛ける光景だ。ネット選挙で“化かし合い”が過熱しては笑えない。有権者が眼力を示す時だろう。