<金口木舌> 1票の力


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 2011年10月チュニジア国民はやや冷めていた。その9カ月前、「ジャスミン革命」で長期独裁政権を倒し、中東に「アラブの春」という民主化をもたらしたにもかかわらず。初の自由選挙を前に、投票率予測は55%と低かった

 ▼選管当局はある仕掛けを考える。投票4日前、首都のビル壁面に巨大なポスターを張った。そこには、追放したはずのベンアリ前大統領の大きな顔写真と「独裁者の帰還」の文字
 ▼たちまち市民が集まる。険しい表情で叫びながら、ポスターを引きずり下ろすと、下からはポスターがもう1枚。「独裁政治が復活する。10月23日は投票へ」。群衆の顔が緩み拍手が湧く。一連の模様は実録CMとして放送され投票率は88%に達した。切実な危機感が国民を動かした
 ▼日本の投票率が低迷して久しい。参院選は60%を割り続け、特に20代は30%台止まりだ。投票率向上を狙い、今回からインターネット選挙運動が解禁された。那覇市選管は大型スーパー2店で期日前投票を始める
 ▼政治を変えるのに軍隊や武力にすがる国がまだある一方で、私たちは投票用紙1枚で新しい政治をつくれる状況にいる。実際に変えた経験もある
 ▼憲法、基地、雇用、TPP、原発…。巨大ポスターに頼らずとも、日本でも切実な危機感が広がりつつある。「未来は変えられる。7月21日は投票へ」。1票の力を信じたい。