<金口木舌> 社会の親心


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「自分一人(ならたんが)よー くり一人(ぶぃとぅりや) 立(た)つぃまけよー(自分一人では、これ一人では世帯は立てられない)」。父母を亡くした女児の事実談をうたった八重山の古謡「まふぇーらつぃ」の一節だ

 ▼父がいたら縁のあるかさもかぶってみたかった、母がいたら袖のある着物も着てみたかったと続く。女児は畑の片隅で孤独な身の不遇を嘆き、亡き父母を恨みながら成長する
 ▼親の愛情を受けられない子の悲しみやさみしさは、いかばかりか。県内の児童養護施設、里親宅などで暮らす社会的養護が必要な子は3月末現在526人。児童福祉法では18歳になると自立とみなされ、里親委託は解かれ、入所者は施設を出なければならない
 ▼大学などへ進学したくても、入学金や授業料のほか、家賃、生活費の工面が困難で、諦める人が多い。自立支援が社会的課題だ
 ▼小中高校で夏休みが始まった。親は子と向き合う機会が増える。わが子と絆を深める一方で、社会の支えが必要な子がいることにも思いをはせたい。自立を間近に控えた子を可能な限り励ましてあげたい
 ▼前段の古謡は歌詞が中断し、女児の後半生は不明だ。恨みを抱きつつ死んだのか、幸せに暮らしたのか。こうした境遇の子たちの歩みをどう導くかは「よその子」で済まさない、社会の親心にかかっている。“隣の子”や地域にも目を向ける夏休みにしたい。