<金口木舌> 癒えない心の傷


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 顔が見分けがつかないほど焼け焦げている。燃えさかる中を、家族や友人を捨てて逃げ惑う人々…。画家の丸木位里(いり)・丸木俊(とし)夫妻が描いた「原爆の図」にはそんな地獄絵が連なる

 ▼深く心を傷つけた凄惨な体験を言葉に表すのは難しい。夫妻は原爆投下数日後に見た死傷者の様子を絵に残そうと心を砕いた。広島原爆投下から今日で68年。何十年たっても心の傷が癒えない人々がいる
 ▼広島市が3年前に発表した調査では、被爆者の19~27%が心的外傷後ストレス障害(PTSD)か、何らかの症状がある。沖縄戦体験者へのPTSD調査でも、約4割が発症しているか、発症しそうな心の傷を抱えていた
 ▼専門家は「米軍機の墜落や米兵の事件・事故で傷口が開く」と話す。今日の状況も症状を左右する。福島第1原発事故はいまだに収束しない。報道に触れる度に心が痛む被爆者も多いに違いない
 ▼福島の原発事故を見ずに世を去った丸木夫妻は約30年前にこう書いた。「原子爆弾は原子力発電所に化けて出ました。エネルギー平和利用の名の下で、放射能がばらまかれている…ある日、日本は強大な原爆保有国に早変わりしないか」
 ▼その後、原発を外国に売る側となった日本。夫妻の憂いは杞憂(きゆう)であり続けてほしい。68年たっても癒えない体験者の傷に思いを致しながら、原爆が残した教訓を問い続けたい。