<金口木舌>ストーン氏、何を語るか


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 虫や鳥の声だけがこだまする静かな森の中、どこから銃弾が飛んでくるか分からない。戦闘で次々に仲間が死ぬ。死への恐怖が敵への殺意を駆り立て、住民虐殺、女性暴行に走らせる

▼オリバー・ストーン監督のアカデミー受賞作「プラトーン」(1986年)が映し出すベトナム戦争だ。過酷な戦闘で精神がまひした米兵が残虐行為をめぐり対立する葛藤を描いた
▼死傷率の高い偵察隊に所属し、実際ベトナムで命懸けの戦闘を体験したストーン氏。主人公の役柄は、自身の体験が基になっている。関係者に映画化を断られ続け、初稿から10年で結実した執念の一作だ
▼ストーン氏が従軍兵士のころ、沖縄からは米軍爆撃機B52がベトナムに飛び、激しい爆撃を繰り返していた。出撃基地である沖縄を、ベトナムの人たちは「悪魔の島」と呼んだ
▼「平和の島と呼ばれていた沖縄がそう思われているのが悲しかった」。沖縄市の真栄城玄徳さんは、自らが加害者に思えた衝撃が原動力になり、くすぬち平和文化館を設立した
▼先の映画で主人公の若者は「生き残った僕らは戦場で見たことを伝える義務がある」と結んだ。沖国大米軍ヘリ墜落からちょうど9年の今日、ストーン氏が初来沖する。戦後67年、出撃拠点であり続け、戦争の被害と加害、両方の悲しみを背負う沖縄に何を見いだし、何を語るのか。耳を澄ませたい。