<金口木舌>釣りのお供の物語


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 1年の半分は夏というくらい暑い沖縄で特別な避暑などなかろうと思いきや、最後の琉球国王尚泰の第四子、尚順男爵の六女・知名茂子さんが夏休みの思い出として興味深いことを書いている(「松山御殿(まちやまうどぅん)の日々」)

▼8月、一家は浦添小湾の別荘で2週間ほど過ごした。子どもたちは首里から歩き、到着すると昼食もそこそこに海に向かって走り出す。日課の農園の草取りから逃れ、自由に過ごせた最高の夏だった
▼もう一つの楽しみは父の夜釣りのお供。そこで尚順はさまざまな話を聞かせた。牛と決闘せよと命じられた武士がひそかに牛に餌を与えて手なずけたという知恵話や、歴代の王の逸話など。ほのぼのとした親子の対話が目に浮かぶようだ
▼連日の酷暑で外に出る気もうせる今年の夏。だが、子どもたちは元気いっぱい、海やプールで歓声を上げる。幸い、沖縄は海も近い。快晴続きで星もきれいだ。ペルセウス座流星群の活動は今夜ごろまで続く。きっと各地で親子の会話が弾むだろう
▼茂子さんには、松山御殿では近寄り難い父の話を別荘で身近に聞けたのがうれしかったようだ。尚順が釣りざおを片手に聞かせた物語は、娘の一生の思い出となった
▼翻って悩み多き現代の親子は、何を語り合うのか。先人の知恵、歴史の教訓、大自然など、全てが教材だ。無事故のまま有意義な夏を過ごそう。