<金口木舌> 侵略の歴史に向き合う


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 国民的人気の高いウルトラシリーズの一コマ。セブンが自身の正義を疑う。海底に住む「ノンマルト」を滅ぼした後だ

 ▼故郷M78星雲で地球人はノンマルトと呼んだ。その使者、少年の真市は「ノンマルトは本当の地球人だ。人間より弱い。人間が海底に追いやった」と警告した。話はこう結ぶ。全てが消滅した今はノンマルトが地球の先住民か「永遠の謎となった」
 ▼名前の由来はローマ神話の軍神マルス。上に否定の意味の「ノン」が付く。脚本を書いた県出身の金城哲夫氏が沖縄の人々を重ねたと言われる。支配者は時に、都合の悪い事実から目を背け、消したがる。この話は侵略の歴史を忘却する罪深さを鋭くえぐり出す
 ▼「侵略の定義は定まっていない」。安倍晋三首相はこう述べた。侵略と植民地支配を謝罪した村山談話見直しを示唆していたかと思うと、今年の終戦記念日の式辞ではアジア諸国への加害についての言及を省いた。戦争放棄をうたう憲法9条の改定にも意欲的だ
 ▼牛島満司令官の孫、貞満さんは沖縄戦時に祖父が「最後まで敢闘せよ」と発した命令が多大な県民の犠牲を生んだ事実に向き合う。「日本は戦争にまつわる事柄をうやむやにしたまま、平和と反対方向に向かっている」
 ▼日本の政治リーダーは侵略戦争の歴史と正面から向き合う謙虚さを持ち合わせているか。国民、世界も注視している。