<金口木舌>祖霊を送る日に


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 親類の家を訪ね仏壇に手を合わせる。トートーメーに目をやると、脇には軍服姿の青年の遺影が据えてある。幼顔と軍帽が不釣り合いに見える。靖国神社の境内や鳥居の写真を飾る家もある

 ▼遺影は亡き夫や息子をしのぶよすがとなる。その死は無駄ではなかったという信念を靖国の写真は支えるだろう。それでも、と思う。戦地で倒れ「英霊」となるために生まれたのではなかったはずだと
 ▼彼の場合はどうだろう。米軍ヘリ墜落事故で死んだ米兵のことだ。カリフォルニア生まれの30歳。妻と2人の子がいる。アフガニスタンに2度派遣された。嘉手納基地の第18航空団司令官は「われわれは英雄を失った」という談話を出した
 ▼北部山中で落命した兵士は「英雄」となるために生まれたのではない。日米両政府の首脳たちは「英雄」のことをずっと心に刻んでおれるだろうか。事故同型機は既に訓練を再開し、上空を旋回している
 ▼オリバー・ストーン監督は在沖米軍基地を見て「戦争が終わっていない」と語った。それに倣えば人命を傷つける戦災は今も沖縄で続いている。米軍の移動に伴い戦災は海外に飛び火し、無辜(むこ)の民を苦しめる
 ▼これ以上の犠牲を出さぬため「戦争」を終わりにしよう。新たな「英霊」や「英雄」を生んではならない。祖霊送りの日、戦災で倒れた人々の無念を思い、停戦の道筋を探りたい。