<金口木舌>心は情は力じゃ取れぬ


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 2000年シドニー五輪の男子柔道100キロ超級決勝は、スポーツ名勝負の一つとして今も強く印象が残る。篠原信一選手が誤審で敗れた試合のことだ

▼「自分が弱かった」。結果に恨み言を言わず、試合後こう語った篠原選手の潔さに感動した。「泣きたかったら講道館の/青い畳の上で泣け」。村田英雄さんのヒット曲「柔道一代」で歌われるような気骨ある柔道家の姿を見た
▼しかしその後の柔道界はどうしたことか。暴力的指導や助成金不正受給など不祥事が続いた。全日本柔道連盟(全柔連)前会長の辞任や執行部刷新は外圧を受けてようやく決まった。柔道家の潔さはどこへ行ったのか
▼柔道にとどまらず、日本体操協会でも女子選手への暴力的指導が疑われている。いまだに体罰を是とする指導者がいるとは思いたくないが、根性論などスポーツ界に旧態依然の思想が根深くはびこるのであれば、暗然とした気持ちになる
▼ともあれ全柔連は新執行部が船出し、改革へかじを切った。一度失った信頼を取り戻すのは簡単ではないが、初めて外部から招いた会長ら幹部の指導力を期待したい
▼混迷するスポーツ界に、再び村田さんの「柔道一代」で喝を入れてもらおうか。「人は力でたおせるけれど/心は情は力じゃとれぬ」。教え導くリーダーに求められるのは道理を説く能力だ。力で従わせる時代は終わりにしたい。