<金口木舌>もがき苦しむ人に


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 夫の症状を「宇宙風邪」と呼び、「二人で、頑張らないことを目標に」。うつ病を克服する夫婦の姿を描いた、細川貂々さんのエッセー漫画「ツレがうつになりまして」で印象的な場面がある

▼妻が夫の病を「他人に言えた自分が、うれしかった」とツレ(夫)に告げる。病を恥ずかしいと思っていた自分に気付き、むやみに隠すことをやめた。以後夫婦は病を受け入れて一緒に闘病していく
▼一方で、悲報も届いた。演歌で一時代を築いた元歌手藤圭子さんが自ら命を絶った。貧しい幼少時代、歌手、結婚、出産と駆け足人生だった。まな娘宇多田ヒカルさんをシンガー・ソングライターに押し上げ、充実した人生を歩んでいると思っていた
▼作家・五木寛之さんが「ここにあるのは〈艶歌〉でも〈援歌〉でもない。これは正真正銘の〈怨歌〉である」と表する実力派。「十五、十六、十七と、私の人生暗かった」。しゃがれた声で情念を歌った
▼ヒカルさんが5歳のころから症状は見られたが、治療を拒んでいたという。自身が病であることをどうしても認めたくなかったのか。著名人のプライドに追い詰められてしまったのだろうか
▼「母が長年の苦しみから解放されたことを願う半面、最後の行為はあまりに悲しく、後悔の念が募るばかりです」と宇多田さん。もがき苦しむ人と家族はどう向き合えばよいか。重い問いだ。