<金口木舌>地球人のまなざし


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 〈ひとつばかりの地球では/僕の世界が広すぎる〉(『僕の詩』より)。沖縄を代表する詩人、山之口貘の詩には「地球」という言葉がよく登場する

 ▼詩人・高良留美子は、貘を「地球の詩人」と呼んだ。東京で放浪生活を送っているうちに、貘は古里や国のしがらみを超えて、地球全体を俯瞰(ふかん)して物事を見つめる境地にたどりついた。貘の詩を読むと、何かの呪縛から解き放たれたような不思議な感覚に包まれる
 ▼貘の“地球人”としての深いまなざしを感じさせるのが『鮪に鰯』。1954年にビキニ環礁で起きた核実験のことをモチーフにした詩だ。米国の核実験は近海を航行中の第五福竜丸に死の灰を降らせ、犠牲者を出した。〈地球の上はみんな鮪なのだ〉と貘は“地球目線”で言葉を紡ぐ。一国の過ちが、地球全体の脅威に及ぶのだと警告している
 ▼貘が生きていたら、高濃度の汚染水が流れ、地球に負荷をかけ続けている福島第1原発事故や、原発輸出で金もうけに走る唯一の被爆国の姿をどう思うだろうか。「ぼくが生きた時代より退化している」と、きっと嘆くに違いない
 ▼9月11日は貘が生まれて110年になる。節目を記念したイベントも多く計画されている。さまざまな貘像が語られることだろう
 ▼今こそ、貘の“地球人”としてのまなざしが必要な時代かもしれない。