<金口木舌> 国際社会の厳しいまなざし


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 南北戦争北軍の将軍だったグラント米大統領は、妻にホワイトハウスでの喫煙を禁じられ、近くのホテルに赴いてはロビーで葉巻をくゆらした。彼の来訪を知った関係者は、大統領への陳情をそのロビーで行うようになった

 ▼政治家への働き掛けを意味するロビー活動の語源となった逸話だ。今、熱いロビー活動が行われているのはアルゼンチンのブエノスアイレスである。2020年五輪の開催地を決める国際オリンピック委員会(IOC)総会の舞台だ
 ▼日本政府はかつてない陣容で招致に挑む。自民党は推進本部をつくり、首相官邸は票読みに当たる。森喜朗元首相は約10カ国を独自に訪問した。国民が比較的冷静なのに対し、景気浮揚の起爆剤に-と意気込む政府の熱の入れようは相当なもの
 ▼経済危機のマドリード、政情不安のイスタンブール、そして原発事故がいまだ収束しない日本・東京。今回の3候補地はいずれも弱点を抱え、「より減点の少ない方が勝つ」と言われる
 ▼東京は欠点をロビー活動で挽回できるか。福島第1原発は放射能汚染水漏れが広がり、東京電力や国の対策、説明も後手に回る。政府はこの問題に約470億円を投じ、解決を急ぐ。決意だけでなく成果を示せるか
 ▼開催地がもし東京に決まっても、原発事故への国際社会の厳しいまなざしは変わるまい。日本は「姿勢」を問われ続ける。