<金口木舌>「デンサー節」の教訓


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄の教訓歌を挙げよと問われれば、多くの県民は「てぃんさぐの花」と答えるだろう。宮良長包の親しみやすいメロディーが魅力の「汗水節」も捨て難い。もう一つ挙げるならば「デンサー節」が浮かぶ

▼西表島の上原集落で生まれ、さまざまな歌詞とともに県内全域で歌い継がれている。登川誠仁さんは、小気味よい誠小(せいぐぁー)流のアレンジを効かした「新デンサー節」を持ち歌とした
▼同じ西表の祖納集落で生まれた那良伊千鳥さんも、この歌を愛する民謡歌手。4年前、彼女の歌声を東京で聞いた。ステージの最後を飾った「デンサー節」の一節「黄金の花ん 心合わち咲かしょり」が心に染みた
▼ステージの様子を紙面で紹介したところ、那良伊さんからはがきが届いた。大切に歌い続けたいという「デンサー節」へのこだわりが伝わってきた。その那良伊さんが今月7日に亡くなった。54歳、まだ若い
▼1998年に発表した初アルバムに収めた「デンサー節」では「我(ば)が島ぬ年老(とぅしゆ)りや 此(く)ぬ島ぬ宝」と歌う。長寿を祝う行事が続く季節にうってつけの教訓だけに、那良伊さんの早世が惜しまれる
▼「ごもっとも」という意の「デンサー」のおはやしに乗せ、先人たちは島で生きる知恵を説いた。那良伊さんは愛郷心と家族愛を歌に込めた。世果報(ゆがふう)への念も深かった。時代を超え、受け継ぐべき教訓がここにはある。