<金口木舌> 無限の可能性


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 95歳の画家、堀文子さんは自然の中の「命」をテーマに描いてきた。80代で大病を患った後は、より小さな命と向き合うようになった

 ▼手に入れた顕微鏡で微生物を観察し、「ミジンコを見た時の感動は忘れない」と興奮する。画文集『命の軌跡』(ウインズ出版)に、ミジンコの黒い目、臓器が透けて見える体を神秘的に描いた絵がある。小さな命を慈しむ作家の魂に圧倒される
 ▼堀さんを思い出したのは、広汎性発達障がいの、双子のひなさんとかのんさんの「天才児 ひなとかのんの絵画展」(27日まで那覇市天久の琉球新報社)を見たからだ。かのんさんが繊細なタッチで描く鳥、バッタ。生き物たちの優しい目が、堀さんの絵と重なった
 ▼「この世の中に小鳥たちがいなかったらつまらないと思います」。かのんさんの文から、生き物を慈しむまなざしを感じる。ひなさんが点描で描く妖怪たちは表現が繊細だ。異界への好奇心があふれている
 ▼「2人のオリジナルな生き方は、私に人生を楽しむこと、面白さを発見するこつを教えてくれる」。母親の森山和泉さんはこう語る。引いたり押したり、工夫しながらの子育てで2人の可能性を広げてきたのだろう
 ▼自然界から小さな命を感じるかのんさん。好奇心で鋭い描写力を発揮するひなさん。無限の可能性を秘めた2人に、静かにエールを送り続けたい。