<金口木舌> 仕事と生活のバランスを


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 働かないことに意義がある-。そんな耳を疑うような仕組みが働きアリの社会に存在する。進化生物学者の長谷川英祐氏は、働かないアリが、より長い社会の存続に貢献することを突き止めた

 ▼理屈はこうだ。皆が一斉に働き一斉に疲れてしまうと巣の存在が危うくなる。暇なときは一部のアリだけが働き、忙しくなるとより多くのアリが働き始める。労働調整の仕組みが社会存続を可能にする
 ▼琉球大の辻和希教授らの研究成果も興味深い。働きアリよりも働かないアリが長生きするという。働くアリの頑張りで社会は存続し、働かないアリはおかげで長生きできるというのだ
 ▼アリ社会の仕組みは、ヒト社会の働き方を見詰め直す上で示唆に富む。近年、仕事一辺倒の生き方を見直し、家庭や地域の生活を大切にするワークライフバランス(仕事と生活の調和)が叫ばれている
 ▼だが県内での浸透はいまひとつ。小規模企業が大半を占め、少数精鋭で臨まざるを得ない事情があるのだろう。一方で労働者の心の健康に赤信号がともる。沖縄労働局の2011年度調査では、メンタルダウンで休業か退職した労働者のいる企業は全体の4割も占める
 ▼心の健康の維持管理の意味でも、いま一度、仕事と生活のバランスを見直したい。沖縄のスローライフを再発見するのも一つの手掛かりか。その先にきっと長寿県復活が待っている。