<金口木舌> 重い冠


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 各地の集落に古くから伝わる儀礼や祭りの場を訪ねるたび、都市化の荒波の中で伝統を守ってきた地域住民の力を実感する。中部地域のウスデークを回った時もその思いを強くした。祭りの主人公は女性たち

 ▼知花花織を羽織った「知花ウスデーク保存会」の女性の表情は晴れがましく見えた。宮城島では月明かりの下で舞う若い女性が印象に残った。祭りを担う自負を感じているようだった
 ▼伝統を守る苦労も垣間見える。ある集落は歌い手の不在を補うため、録音の音声を使った。交通量の激しい国道沿いの歩道を女性たちが練り歩く地域もあった。祭りの場を確保するのも容易ではない
 ▼時とともに街や村は姿を変え、世代交代が進む。変化の速度は儀礼や祭祀(さいし)の担い手の想像を上回ることもあろう。神聖な場であるはずの拝所にも変化の波は押し寄せる
 ▼斎場御嶽(せーふぁうたき)には、都市化に加え急激な観光地化という荒波が押し寄せた。世界文化遺産という重い冠やパワースポットという修飾語は、時として静かな祈りの妨げになったかもしれぬ。南城市は「男子禁制」を検討する
 ▼約半世紀前、画家の岡本太郎は雑誌連載で「何もないということの素晴らしさに私は驚嘆した」と沖縄の御嶽をたたえた。「ありすぎる」という時代の中で、沖縄の精神世界に根差す静かな祈りと聖域をどう守るか。避けては通れない課題である。