「卒業式で教員全員をビデオ撮影する人がいる。報道関係者なのか」。1999年の国旗国歌法の施行後、那覇市内の県立高校の校長からこんな電話があったことを記憶している
▼職員が君が代を歌っているか確かめている様子だという。次の入学式を待ったが、撮影者は現れなかった。そんな古い話を思い出したのは、大阪府教育委員会の「通達」がきっかけだ
▼入学・卒業式で教職員が国歌斉唱しているか、管理職が確認するよう府教委が全府立学校に求めた。根拠は公立学校の教職員に日の丸掲揚、君が代斉唱を義務付けた大阪府条例だ
▼管理職による教師の監視強化とは尋常ではない。「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」という憲法の条文が、大阪府条例の前では色あせて見える
▼国旗国歌法を審議した99年7月の参院本会議で小渕恵三首相(当時)は「(掲揚、斉唱とも)義務付けは考えておりません」と答えている。法の制定過程を振り返ってみても、大阪の動きは突出し、異様だ
▼大阪府教育長のブログを読むと、「自分で“思考”する教育(正解が一つでない問題に触れる機会を増やす教育)」が理想とある。しかし、その理想と教師への監視強化は不釣り合いではないか。生徒に「思想の自由より権力への従属」が大切と誤ったメッセージを送り、晴れやかな門出を汚す愚は避けたい。