<金口木舌>父親の貴重な時間


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「だれがすきなの/あのね/かあさんが/すきなのよ」。童謡「ぞうさん」の一節だ。この中の「かあさん」に嫉妬を覚える父親もいるだろう。父親が出てこない童謡や童話は実に多い

▼ただ、この詩の作者は父親だ。詩人まど・みちおは、7歳の息子から誕生祝いに汽車のおもちゃをせがまれたが金がなく、動物園に連れて行く。猛獣は戦時中に殺され、何もいない象舎の前で詩が頭に浮かぶ
▼まどは3年後の1951年、42歳でこの詩を書く。100歳になった際も、少年期に受けた母の愛を振り返り「自分が一番好きなお母さんを誇りに思う詩」と語った。親を思う心も「三つ子の魂、百まで」である
▼幼いころから父親の愛を感じてほしい-。そう思い、35歳のとき、育児休業を1カ月取った。1歳の娘を相手に七転八倒だったが、掛け替えのない大切な触れ合いの時間だった
▼2013年版少子化社会対策白書は、長時間労働の男性は30代で5人に1人と最も割合が高く、育児参加が進んでいないと指摘する。消費者庁は育児目的の短期休暇を取った職員や、仕事を分担した同僚・上司を評価する制度を導入、4月以降、男性職員5人が休暇を取った
▼子が親の愛を体に刻む貴重な時間はお金に換えられない。男性の育児参加を促す職場の意識・制度づくりが急務だ。童謡や童話に自然と「とうさん」が多く登場する日を願う。