<金口木舌>後進の導き星


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 戦後日本人の食生活は三つの時代に分けられるそうだ。戦後の食糧難の時代は腹を満たせば何でも、という「胃で食べる時代」。高度経済成長期は洋風料理が流行(はや)り食材の幅が広がった「舌で食べる時代」。世界第2の経済大国になると食にこだわり「目で食べる時代」になったと

▼沖縄では胃で食べる時代が長く続き、米国統治下でファストフードや缶詰類などが食卓を席巻した。半面、影が薄くなっったのが沖縄の伝統食だった。長寿県崩壊につながる沖縄の食生活の変化に警鐘を鳴らした一人が松本嘉代子さんだった
▼「地元の食材を地元の調理法で食べるのが一番おいしく、健康維持にも最適だ」。その信念で琉球料理を伝え続けてきた。いま、琉球料理を文化財に指定しては、と呼び掛ける
▼思えば沖縄戦でふるさとが灰燼(かいじん)に帰し、幼少期をゼロどころかマイナスからスタートしたのがいまの70歳代だ。沖縄の現状を憂い、復興と発展に向け、各分野で懸命の努力をしてきた世代である
▼昨晩、第49回琉球新報賞を贈られた松本さんをはじめ、山内徳信さん、知念栄治さん、宮城能鳳さんは沖縄のために尽力した70歳代の象徴だ
▼受賞に当たり山内さんは沖縄戦を生き残った者の責任を、知念さんは自立経済への道を、宮城さんは芸道への意欲を語った。その歩みは後進の導き星でもある。感謝を込めて業績をたたえたい。