<金口木舌> 被災者に寄り添う


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 深く悩む人の話を聴くには時間がいる。ミヒャエル・エンデ作の児童文学「モモ」の主人公モモはその手本になる。モモは時間をかけて人々の話を聴いて問題を解決し、人々は自分を取り戻す

 ▼だが「時間泥棒」が人々の時間を盗み始める。人の話を聴き、深く考える時間は罪悪となり、効率のよい金もうけが至上命令に。モモは戦う
 ▼先月、宮城県を訪れた。東日本大震災の被災者にも、心に寄り添う支援者がまだまだ必要だ。多くの被災者が3・11から時間が止まったまま、明るい将来を描けずにいる
 ▼「何もかも勝手に決めようとするから進まない」。高台移転が滞る現状に、仮設住宅に住む男性は行政への不満を表した。東京五輪の招致決定による高揚感の陰で、被災者が忘れられる不安を訴えていた
 ▼共同通信の世論調査で、復興特別法人税の前倒し廃止に東北は74%が反対した。被災者は“置き去られ感”を抱いているだろう。震災はこの国の時間を一度止め、効率性を追求する中で忘れていたものを立ち止まり考える時間を与えた。だが思索を深めることなく、時間だけが過ぎているように感じる
 ▼時間が止まったままの被災者に向き合うことを忘れてはならない。仮設住宅のカフェの壁に「モモ」劇化公演へ来場を促すポスターがあった。演劇を見た被災者は「時間泥棒」の存在をより強く感じるかもしれない。