<金口木舌>介護からもらう幸せ


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 60代の息子と認知症が進んだ80代の母。2人の会話をユーモラスに描いた漫画「ペコロスの母に会いに行く」(西日本新聞社)を笑いながら読んだ。涙も浮かんできた

▼著者の岡野雄一さんがグループホームで生活する母とのやり取りを描いている。動きが緩慢になってきた母は、髪が薄くなった息子の頭をたたく時だけは容赦ない。「リハビリ代わり」と、息子がわざと頭を差し出す場面はほほえましく、切ない
▼母の爪を切っていると、部屋に日差しを含んだ風が吹いてくるのを感じる。「このたわいのない時間、どれだけ大切でいとしいものか」とつづる。介護には優しい時間が流れている、と感じる瞬間がある
▼3年前に101歳の父親を介護する女性の話をうかがった。娘が慌てる時、父は必ず「よんなー、よんなー(ゆっくり)」と声を掛けた。「介護は大変と言われるが、ベスト、ベターはない。逆に幸せをもらうこともある」。笑顔で語った女性の言葉が印象深い
▼介護を語る時、厳しさだけが強調されがちだが、老いに寄り添うことは生きることの重さを知る機会でもある。自身の「生きる」と向き合う穏やかな時間だからこそ、介護の厳しさを乗り越えられるのかもしれない
▼社会保障制度改革では財政負担の大きさに目がいきがちだが、お金では計れない介護の価値を軽視すべきではない。