<金口木舌>ブラインドタッチ


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 随筆集「シーサー刑事のクサムニー」を出した元県警刑事部長の稲嶺勇さんから「パソコン刑事」という言葉を聞いた。人の顔を見ずに、ひたすらキーボードをたたいてメモを取る刑事を指す

▼15年ほど前の現職刑事との会話を思い出す。容疑者と目を合わせず、パソコンに向かって取り調べをする若い刑事がいるという。「人の顔を見ずに話が聞けるのか」とベテラン刑事はこぼしていた
▼いくつかの場面が浮かぶ。会議が始まった途端、ノートパソコンを開く人。ファストフードのテーブルを囲み、会話をせずにパソコンに向かう若者たち。おせっかいながら、おしゃべりを楽しんではどうかと思う
▼当方の職場も似たようなもの。記者会見が始まるとキーボードをたたく音が会見室を包む。終わればメモの送信作業に移る。手際の良さに驚いたのは10年前。今、取材現場では当たり前の光景となった
▼キーボードを見なくても、正確に文字を打つブラインドタッチを身につければパソコンとのにらめっこは避けられる。そのとき目線をしっかり定めたい。話し手の思いにブラインドをかざしてはならない
▼パソコン記者、端末記者と揶揄(やゆ)されぬよう自戒したい。「顔を見て人の話を聞かなければ、心のこもった文章は書けない」というシーサー刑事の話をクサムニーと済まさず、貴重な諭しとして心に刻んでいる。