<金口木舌>人生を変える1冊


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 1日1食というのは、14歳の少年には酷だっただろう。2001年にアフリカ南部の国マラウイを大干ばつが襲った。餓死者は数千人。ウィリアム・カムクワンバ君の家も困窮し、主食のトウモロコシ粉を兄弟7人で分けた。1人3口が一日分の食事だった

▼学費が払えず中学も退学した。農作業の傍ら、図書館に通い詰め、ある本を手にする。「エネルギーの利用」。米国の中学生向けの物理教科書だった。英語は読めなかったが、写真や図を見て風車で電気を起こせることを知った
▼彼は早速行動に移す。村のごみ捨て場から廃材を集めた。自転車の部品、塩ビパイプ…。一時は変人扱いされたが、数カ月かけて風車を作り上げ、ついに電球を発光させた。その後、風車5台を設置し、水のくみ上げにも成功した。国の電気普及率2%の当時、貧しい村に独学で電気と水をもたらした
▼ウィリアム君は今26歳。輝かしい発明が評判を呼び、米国の大学で学ぶ。自然エネルギーで母国を救うのが夢だ。アル・ゴア元米副大統領も最大級の賛辞を贈っている
▼彼の人生を変えたのは1冊の本だった。書物には数多くの生き方、考え方が詰まっている。ページをめくるだけで、他者の人生を幾つも追体験できる
▼灯火親しむ秋。27日からは読書週間が始まる。ウィリアム君ほどではなくても、新たな地平を開く1冊が待っている。