<金口木舌>「知る権利」に暗雲


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 「ディープスロート(内部告発者)は私だ」-。2005年、衝撃的なニュースが世界中を駆け巡った。米のニクソン元大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件から33年。スクープの情報源が自ら名乗り出たのだ

▼男性が当時連邦捜査局(FBI)の副長官だったため、衝撃は大きかった。ワシントン・ポストで事件を報じたボブ・ウッドワードは著著「ディープ・スロート-大統領を葬った男」(文藝春秋)で、男性が亡くなるまで名前を公表するつもりはなかったと、明かしている
▼長年、取材源を秘匿したウッドワードは信頼され、スクープ後も機密を扱う人々から貴重な情報を得た。「自由な報道機関が憲法にのっとった重要な役割を果たすには、そうした人々の存在が欠かせない」と強調する
▼政府が隠そうとする都合が悪い情報と、国民の知る権利をはかりに掛けて事実を公にする。情報提供者の存在と記者の熱意がなければ、真実は闇に葬られていた
▼一方、この国では特定秘密保護法案が審議入りし、国民の知る権利に暗雲が立ちこめている。法律ができれば、政府は国民に見せたくない情報を思うがままに秘密指定できる。場合によっては永遠に。あるいはスクープを封じ込めようと躍起になるか
▼国民が目隠しをされ、外交・防衛政策に関する批判の機会が狭められる社会。想像もしたくない光景だ。