<金口木舌> 私の母語は何だろう


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 外国語を自在に操る人にあこがれる。しまくとぅばを守り伝える人には頭が下がる。語学音痴のわが身にはまぶしく見える存在だ。先日も台湾生まれの若者の話を聞き、羨望(せんぼう)と軽い嫉妬を感じた

 ▼彼の母語は台湾語。北京語を使う知人がおり、台湾語だけではうまく話が伝わらないので英語で会話するという。同じ中国語圏なのに、英語で意見を交わす。そんな体験を披露する彼の言葉は流ちょうな日本語だった
 ▼国際色豊かなコザにうってつけの話題に触れ、20年前に訪ねた南洋の島々を思い出した。島の高齢者は沖縄から来た若造に日本語で応じてくれた。取材ははかどったが、日本統治の残影を前にして、気分は晴れなかった
 ▼「沖縄の言葉を知っている」というロタ島の住民には戸惑った。「ニヘーデービル、酒グヮーアミ」と声を掛けられ、頭に描いたのは、かつて島で暮らした県系人との酒盛りの図
 ▼多言語を駆使する台湾の若者に接し、日本語教育の洗礼を受けた島々の歩みをたどりながら「私の母語は何だろう」と語学音痴は自問する。「しまくとぅば」と明快に答えることができず、もどかしい
 ▼しまくとぅば復興の機運が高まっている今こそ、台湾や南洋と同様に沖縄を覆った日本語教育や戦後の標準語励行の呪縛を解きたい。母語として、しまくとぅばを取り戻す確かな一歩を重ねるために。