<金口木舌>「食のプロ」の誇りは?


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 スーパーマーケットで買い物をしていると、県産野菜が並ぶ棚に農家の名前と顔写真が添えられているのを目にする。「豊見城市の○○さんがつくったゴーヤー」といった具合。新鮮さに親近感が加わった買い物は楽しいものだ

 ▼農業担当記者のころ、岩手県から南城市に移り住み、農業を始めた男性を取材した。手つかずになっていた畑を借り、栽培する農作物を少しずつ増やしていった。今も男性の顔写真が張られたネギをスーパーで見かけると、うれしくなり手に取る
 ▼2000年から日本農林規格(JAS)法の改正で生鮮食品に産地表示が義務付けられている。産地に加えて農家の名前と顔写真が表示された野菜から特別な思いが伝わってくる
 ▼そして、食材にこだわり、味を守り続ける料理人がいる。小説家の池波正太郎さんは、著書「むかしの味」(新潮文庫)で“懐かしい味”を守り抜く店を訪ねている。店主たちの細かな心遣いに触れた池波さんは、料理から「良き時代の心の豊かさ」を感じた
 ▼心を豊かにする料理とは昔話なのか。ホテルのレストランでメニューと異なる食材を使った問題に心がすさぶ。メニューに表示された「沖縄のまーさん豚」は別の産地のものだった。産地にこだわる農家も深く嘆いていることだろう
 ▼「食のプロ」の誇りはどこへ行ったのか。客と生産者の信頼を取り戻してほしい。