<金口木舌>海に生かされる


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 古ぼけたサバニを海に浮かべると男たちから「十分いける」と声が上がった。満足そうな顔は、誰もが再び海上を走るサバニの姿を思い浮かべているようだった

 ▼那覇の泊ハーリーを引退したサバニ3隻は、十年以上陸に揚がっていた。名護の大浦湾に来たのは9月のこと。修復し、観光資源に活用する目的だ。那覇のウミンチュの心意気が詰まったサバニをやんばるの人が復活させる
 ▼大型サバニを活用して、修学旅行生を受け入れるなど、観光振興への期待は大きい。それに加え、那覇とやんばる、海を愛する男のロマンがサバニに詰まる。雄姿を見るのが待ち遠しい
 ▼大浦湾ではカヌー体験など海洋レジャーでの地域おこしが活発だ。サバニ復活もその一環。地域振興拠点である「わんさか大浦パーク」の前に広がる海は、地域の未来を託した舞台といえる
 ▼そうした思いが含まれているのだろう。政府が行う辺野古埋め立て申請手続きで、名護市が募った市民意見は2500件に達した。大半は生活や自然への影響から反対する声だ。「恵みの海をつぶすな」という意見もあった
 ▼辺野古を埋めれば、ジュゴンやウミガメも来る豊かな大浦湾は失われる。人も船も生き物も、海でこそ生きるし、海に生かされる。埋め立てで失うのは自然だけではない。活性化にかける地域の未来も奪うことを国は知ってほしい。