<金口木舌> 「新たな戦前」にしないために


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 あの戦争を見つめた記者たちは当時、どんな思いでペンを取ったのだろうか-。23年前に出版された「記者たちの戦争」(径書房)には、元新聞記者15人の貴重な証言が収められている

 ▼聞き取りをしたのは、北海道新聞労働組合。戦意発揚に加担した新聞。戦時中の紙面をつくった先輩に取材する作業は「自分だったらどうしただろうか」と突き付けられる厳しい作業だったという
 ▼印象的なインタビューが載っている。海軍省を担当していた同紙の記者は、軍の意向に沿った報道しかできなかった日々を振り返る。「見たもの、聞いたものをそのまま書けないという言論統制も、慣れてしまえば当然のことのように受け入れられる」
 ▼68年前、戦争の真実を伝えることができない時代があった。沖縄戦では、戦況が住民に知らされることなく多くの犠牲者を生み出した。言論が弾圧・統制された「暗黒時代」を経て、戦後平和憲法の下で保障されたのが表現の自由であり、国民の「知る権利」だ
 ▼暗黒時代の再来など、誰も望まない。だが、「知る権利」に網を掛ける特定秘密保護法案によって危うい事態が現実味を帯びつつある。沖縄戦の体験者からは、治安維持法を絡め「戦前回帰の法律だ」との危機感を耳にする
 ▼「新たな戦前」をはねのけ、戦後をどう持続させるか。社会全体で重い課題を克服せねば、と思う。