<金口木舌>副読本を読み直す


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 中学校の歴史副読本「琉球の歴史」をご記憶の方は40代後半以上か。「アジア大陸の東の海に、ほそながくつらなる島々、これがわたしたちの郷土沖縄です」で始まる上下2巻の著者は仲原善忠

 ▼沖縄最古の8千年前の土器が南城市で見つかったというニュースに触発され、古い副読本を読み直した。私たちの祖先が沖縄に住み着いたのは「数千年前、少くも二千数百年前」と仲原は冒頭で記す
 ▼上巻の発刊は1952年。18年後の港川人発掘など、さまざまな発見と研究は古代の沖縄の姿を徐々に明らかにしていく。仲原が存命なら沖縄の祖先像をくっきりと描いたであろう
 ▼上巻の冒頭から2千年ほど歴史を下る。下巻の末尾は「沖縄の問題は、沖縄をふくめた日本の国にのこされた、もっとも深刻な問題の一つです」と結ぶ。発刊は講和条約発効から1年後の53年4月
 ▼東京に身を置き、日本から分断された郷里を案じる研究者の心痛がにじむ一文は、60年後も修正の必要を感じない。むしろ日本全体で考えるべき問題を沖縄に押し込める動きの中で、一層重みを増している
 ▼普天間飛行場の県外移設を掲げた自民国会議員が県内移設容認に転じた。放り出された公約の軽さに愕然(がくぜん)とする。翻意を迫った政府や党本部への怒りも募る。今は嘆くまい。犠牲の強要をはねのける沖縄の歴史をたゆまず刻み続けよう。