<金口木舌>見守る目、疑いの目


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 北部や南部の農村地域で、無人販売所をよく見掛ける。取れたての新鮮野菜が安く手に入るのがいい。農家は損していないか気掛かりだが、客を信頼して初めて成り立つ商売だ

▼こんな実験がある。英国の心理学者が、ある会社の休憩所に飲み物の無人販売コーナーを設けた。箱に自ら料金を入れれば、コーヒーや紅茶、ミルクが自由に飲める。壁に料金表を貼り、写真も添えた
▼写真は「人の両目のアップ」と「花」。週ごとに交換し、10週間様子を見た。きちんと支払われた率は、1割~7割とばらつきがあったが、平均すると、人の目の週が花の週よりも2・7倍多かった。利用者は壁の写真が変わっていたことに誰も気付かなかったという
▼調査したメリッサ・ベイトソン教授は「脳が自然に反応し、人は無意識のうちに他人の目を気にしている」と指摘する。霊長類の時代から集団で暮らしてきたヒトは、互いの目を意識することで自らを律する仕組みがあるのかもしれない
▼しかし、こちらの“目”には背筋が凍る。衆議院を通過した秘密保護法案だ。歴史学者の纐纈(こうけつ)厚氏は「厳罰化で市民に自粛を強いて、いびつな監視社会が出来上がる」と警告する。まさに、人を怪しむ疑心暗鬼の目だ
▼無人販売のように、他人を信頼できる成熟社会こそが私たちの望むもの。戦前の暗黒時代への逆戻りはまっぴらごめんだ。