<金口木舌>コンビニエンスの陰で


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 井戸のある所に人が集まり、市が生まれたことが「市井」の語源となった。市は物品の交換や売買だけでなく会合の場でもあった。市井の主人公は庶民である

▼時代は移りゆく。水道の普及で井戸は暮らしの中から遠のいた。コンビニと大型スーパーは都市生活の要だ。日用雑貨の購入はネット通販で済む。コンビニエンス(便利)を追う中で、市井は形を変える
▼うるま市与那城宮城区の共同売店が11月末、84年の歴史を閉じた。島外での買い物が容易になったことと利用者の高齢化が背景にある。売店をよりどころとしてきた住民もおり、新たな場所で個人商店の開業を模索する
▼単なる商店の廃業ではない。離島の暮らしを長年支えてきた土台の一角が崩れる図が目に浮かぶ。便利さを追求するあまり、置いてけぼりを食った地域住民が市井の隅で生きづらさを感じてはいないか
▼100年余の歴史を持つ共同売店は今も相互扶助や交流拠点の役割を担う。今年7月には宜野座村漢那区で共同売店が復活した。コンビニ出店の話もあったが、「地域性を守る」という判断から売店経営を決めた
▼便利さを追うことが暮らしの質を保証するとは限らない。充実する流通とネット通販の恩恵からこぼれ落ちる人をすくい上げ、市井の豊かさを追求するとき、庶民の心に寄り添う共同売店は掛け替えのない地域財産となる。