<金口木舌> 手書きの味わい


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ひと昔前より手書きの手紙にぬくもりを感じる。筆で描かれた絵まであれば心が和む。電子メールが日常にあふれているだけに、余計にそう感じる

 ▼印象に残る短歌がある。〈コスモスの花の可隣さ絵手紙に海越え離る友の面たつ〉(奥里須枝子)。絵手紙をもらい、遠くにいる友の面影に心を寄せる心情が読み取れる
 ▼さて年賀状を誰に出そうかと思いを巡らせる季節がやって来た。遠い友を思う良い機会だが、電子メールの普及には勝てないようだ。去る正月の年賀状配達枚数は、沖縄は1人当たり6・4枚で全国15枚の半数に満たない。前年と比べても96・1%で全国98・5%より減少幅が大きい
 ▼そんな中、手紙文化の普及と豊かな自然のPRを同時に図る一石二鳥の試みも出始めた。ヤンバルクイナを飼育している国頭村の施設は年賀状でクイナの名前と施設の愛称を募集する
 ▼「文明の利器で便利な時代だが、心は伝わりにくい。手書きの毛筆や絵は心を触れ合わせる」。沖縄絵手紙友の会の桑江良憲会長は、会う機会が少ない友への年賀状を勧める
 ▼〈「生きる」とふ三文字のみの絵手紙に身はつまさるる一人の夕べ〉。先の短歌の2首目だ。短い言葉でも思いは伝わる。遠い友と絆を結ぶ喜びは何物にも替え難い。電子メールから離れ、手書きにこだわるのも乙な年の瀬の過ごし方かもしれない。