<金口木舌> 見送る思い


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 沖縄民謡界をけん引した知名定男さんが引退公演で最後の曲に選んだのは父定繁さんの作「別れの煙」だった。県外に出るわが子との別れを惜しむ歌だ。後継者で息子の定人さんと歌い、2人とも涙があふれ声が出なかった

▼音楽家の宮沢和史さんが本紙連載「島ぬシンカヌチャー・島唄の20年」(3日付)で振り返っていた。「知名塾」で若い世代を育ててきた知名さんの言葉も引用している。「上手になると皆、自分の手柄のように思うが、先人の技をやっと受け継げるようになったにすぎない」
▼一時代を築き、惜しまれながら各界を去る人々の言葉は深く美しい。口々に先人の教えを尊ぶ。今年もそんな言葉を耳にした
▼元大リーガーの松井秀喜さんは巨人時代の長嶋茂雄監督の指導を「野球人生の大きな礎」とし、国民栄誉賞表彰式で直接感謝した。世界的なアニメ監督の宮崎駿さんは「この世は生きるに値するという言い伝えを受け継いできた」と語った
▼そんな姿勢と同様に、ウチナーンチュは先人の教えを尊んできた。中でも「命どぅ宝」は沖縄戦の経験を基に、変わらぬ基地を前に息づく重い教訓だ
▼政府の重圧で引き裂かれたウチナーはこの教えを生かせるのか。憂いの中で迎えた大みそか。この苦い経験をも教訓にし、行く年を「別れの煙」のわが子に重ねて見送りたい。「島のことをちゃー忘るなよ」と。