<金口木舌>水の力を借りて


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 好きな飲み物は、と問われれば、迷わず泡盛と答える。風呂上がりの冷えたビールも捨て難い。それと同じほど美味なものは、深酒をした翌朝に飲む一杯の冷たい水

 ▼「酔い覚めの水は甘露の味」と辞書にある。二日酔いの身を清めてくれるし、前夜の反省を促す効果も伴う。極上の味を楽しめるのは酒飲みの特権だと威張っては笑われるだろうか
 ▼沖縄の伝統的な正月風景にも水が登場する。元日の朝、井戸からくむ水を「若水(ワカミジ)」「ワカウビー」と呼び、ヒヌカン(火の神)や仏壇に供えた。若返りの霊力があると信じられている。水を額に付ける「ウビナディ」の行事で家族の健康を願った
 ▼激震の余波が続く中、新年がめぐってきた。仲井真知事の辺野古埋め立て承認から5日。怒り、驚がく、落胆、諦観。沖縄に渦巻くさまざまな声が聞こえてくる。言葉にならぬ声もあっただろう
 ▼またぞろ「苦渋の決断」の安売りが横行している。沖縄の混乱を尻目に、圧力と分断を企てたやからが美酒を傾ける姿を想像する。県民は煮え湯を飲まされた。喉元から体中に広がる痛みは今もやむことはない。それでも新年はやってきた。水の力を借りる時
 ▼嘆くまい。屈してはならない。諦める時ではない。背筋を伸ばし、誇りを掲げ、足並みをそろえて歩もう、ウチナーンチュ。そう誓い、元日の朝、一杯の水を飲み干したい。
英文へ→Kinkomokuzetsu: Enlisting the power of water