<金口木舌>つねよしの目で見つめる


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 沖縄市の胡屋十字路かいわいで、古い建物の取り壊しが相次いでいる。沖縄市誕生から今年で40年。時とともにコザの名残は消えてゆく

 ▼画廊や旅行代理店が入っていた十字路角の建物も取り払われた。すると隣の建物の壁に描かれた英文字が姿を見せた。「テーラー」の文字があるので仕立屋だったのだろう。米国統治下のコザの残像が目に浮かんだ
 ▼東峰夫さんの芥川賞受賞作「オキナワの少年」は、しまくとぅばを織り交ぜ、米軍基地に隣接するコザの人々を描いた。時代は1960年代か。主人公・つねよしが高台から軍用道路沿いに並ぶ店の裏側を見詰める場面が印象深い
 ▼店を飾る看板に隠された便所、煙突、トタン屋根。「ここからはまる見えじゃないか」と、つねよしはつぶやく。コザの生活臭とともに、戦争と米国統治に翻弄(ほんろう)された人々の過酷な歩みを見たのではないか
 ▼つねよしは「ぼくにはみんな大きくて無理だったんだ」という失意を抱き沖縄脱出を試みる。あの時代、同じように新天地を求めた人、沖縄にとどまり自分の運命を見詰める人、さまざまな「オキナワの少年」がいただろう
 ▼つねよしの目で今の沖縄を眺めてみる。政府は振興策という名の看板を県民の頭上に掲げるつもりだが、何を覆い隠すつもりか県民は知っている。「まる見えじゃないか」というつぶやきが聞こえてくる。