<金口木舌>災害をわが事に


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 建物内で非常ベルが鳴る。大抵、誰も逃げずに様子をうかがう。人間には「自分は大丈夫」と危険性を過小評価する心理「正常化の偏見」が働くからだ。まだ人ごとの段階。ところが一人が逃げだすと、つられて逃げるという

 ▼防災教育で知られる片田敏孝群馬大教授の那覇講演で知った。岩手県釜石市で2004年から防災を指導し、東日本大震災で市内の小中学生約3千人のうち生存率99・8%という「釜石の奇跡」を生んだ研究者だ
 ▼過去に何度も大津波に襲われた釜石でも、初めは住民の避難意識は高くなかった。防潮堤があるからと油断が広がっていた。そこで子どもたちには「すぐ逃げる」ことを意識付けた。君が逃げないと、親は君を迎えに来て津波にのまれてしまう。君が自発的に逃げることが親の命も救う、と
 ▼三陸に伝わる「津波てんでんこ」の教訓だ。自分の命は自分の責任で守れという教えは、互いを信頼しているからこそできること。3・11に小中学生一人一人がそれを実践し「奇跡」を呼んだ
 ▼片田教授は、沖縄は台風対応はできているが地震・津波への意識は不十分だと指摘した。死者1万2千人を出した1771年の明和大津波から「たった240年間津波がないからといって安心するのは大間違い」
 ▼阪神大震災からきょうで19年。地震のない県という偏見を持たず、災害をわが事として考えたい。